マヨヒガ

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§    気が付くと、どこぞの民家の納屋の中にいた。目の前で美しい女が震えている。   (一体どうしたことだ。先程まで儂は山の中の屋敷にいた筈だが・・・否、「ここ」こそが現世。儂は束の間夢を見ていたに相違ない・・)   川間はにやり、とほくそ笑んだ。若い女を力づくで犯し、殺すのが長らく戦場の楽しみになっている。   今もまた逃げようとする女を殴り、無理やり押し倒して更に殴りつけ、抵抗する気力を奪い、女の体をまさぐり始める。   「川間殿」 後ろから突然自分を呼ぶ声がした。振り向いたそこにいるのは佐久間徳重──軍目付直属の侍である。兵の軍規違反に目を光らせる役職だ。   「しかと目にしましたぞ。敵領内とは言え、民への狼藉はご法度にござる」 「誤解じゃ、佐久間殿」 「言い逃れは見苦しゅうござりますぞ。既に軍目付も御承知。いざ腹を斬られるならば、拙者が介錯致そう」 女は隙を見て逃げ出した。   (仕方がない。この際、この佐久間を斬り伏せて敵の仕業に仕立て上げるしかあるまい)   「何をたわけたことを・・・この槍大将川間兵吾、そのような事で死んでたまるか」 「言うたな。上意に御座ればいざご覚悟を・・・御免!!」   言うが早いか、佐久間は刀を抜き放ち、一気に駆け寄ってきた。咄嗟に槍を付き入れたが、佐久間は難なくそれを擦り上げて間を詰めてきた。 槍は近すぎる間合いでは却って使えない。咄嗟に槍を捨て刀を抜く。ガキン、と刃がぶつかり合う。刀を交差させつつ、用心しながら互いに少しずつ下がる。と、川間は得意とする太刀の巻き落としを試みた。大抵の者はこれで刀を取り落とし、拾う間もなく川間に斬られるのだ。   しかし佐久間の方が一枚上手であった。川間とは逆向きに刃を回転させて佐久間の刀を打ち落とし、すかさず身体を左右反転させて間合いを詰め川間の喉元を斬り上げたのだ。吹き上げる血飛沫を呆然と眺めながら、川間はばたんと前のめりに倒れた。  
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