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気が付くと、おらは震える子供の前にいた。まだ元服前の、十にもならぬ子供だ。
「・・・」
すぐ後ろから声が飛ぶ。
「上意である。斬れ!!」
刀を振りかざす。
少年は健気にも怯えを隠し、名家の矜持を示さんと泣き叫ぶのを堪えている。
いつこんなことになった?
おらはさっきまで山の中の屋敷に居て・・・
それに、おらは合戦になど出たことはねえ筈だ。
誰を斬ったこともねえ。小作人の両親の制止を振り切って、村を訪れた侍達と村を出て来たばかりだ。まだ足軽という身分でも、出世すれば偉くなれると聞いて。
だが出世とは何だ。手柄とはなんだ。その実態はこんな子供を斬ることだったのか。戦国の世とはいえなんと無慈悲な。おらはこんな身分に憧れていたのか。なんて恐ろしい・・・
「おい、何をしている!!」
後ろから怒号が響く。
「おらは・・おらには出来ねえ!!」
「何だと!!貴様、主命に逆らうか!!」
「出来ねえことは出来ねえ!!おらは侍を辞める!!」
「この小心者が!!」
名も知らぬ侍に思い切りぶん殴られ、体が横方向に吹っ飛んでいく。
「追って沙汰を下す!!死罪は免れぬと知れ!!うつけ者!!」
成り行きを見守っていた少年が驚いたような目で自分を見ていた。
その少年の首がごろんと転がってきた時、彼が自分に微笑んで見せたような気がした。
「お主は戻るが良い」
生首がそう告げた途端、視界がぐにゃりと歪んだ。
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