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源蔵の胸の内には、不安ばかりが渦巻いている。そんな視界の隅に、何か光るものを目にした気がした。目を凝らすと、人影のようだ。知らずそこに足を向ける。
人影はちらりと見えたかと思うとすぐにいなくなる。それを何度も繰り返し、いつの間にか山深く足を踏み込んでいると気が付いた時には、どこをどう歩いたかも覚えていなかった。
「どうすべ・・・」
困惑している源蔵の前を、一人の少女が歩いて行く。さっきから追い掛けているのがその少女だと、直感で悟る。こんな山奥であんな綺麗なべべを着てほっつき歩くおなごなぞ、きっと人じゃねえ・・・
頭では理解しているのに、何故か少女を追わねばならない気がした。そして再び追い掛けて暫く、杉の大木の前で源蔵は少女と対面した。
源蔵の目が驚愕に見開かれる。
「おまん・・・おまん・・・」
涙がぽろぽろと零れるのをとめることが出来なかった。
「ちい姉でねえか・・・」
源蔵は少女の前に両膝を付き、少女を見上げた。
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