千歳

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翌朝、千歳は何事もなかったように目を覚ました。 だが村の者達には、娘の様子がその後少し変わったように見えた。無口なのは相変わらずだが、村の子らとは交わらず、どこか遠くを見ていることが多くなった。 娘が物ノ怪に憑かれていると噂が立ち始めたのは、その頃からだった。   例えばある時、千歳に襲い掛かった山犬が彼女に指をさされた途端、ふらふらと自ら川に入って行き、そのまま溺れ死んだ。 またある時は病に伏している老人の家を指したその日に、老人は亡くなってしまった。 狂い咲きの桜の幹に、千歳が手を触れた途端花が全て散ってしまったこともあった。また近所の子が沢に遊びに行こうとしていた時、頑なに行かせまいとした。沢ではその日、突如鉄砲水が発生した。   全てが偶然か、それとも神がかった力が働いていたのか。 噂が噂を呼び、村の大人達は千歳を畏れ始めた。 本人はそれに気づいているのかいないのか、相変わらず遠くの空を眺める毎日を送っていた。両親は日々の生活に追われながら、そんな娘を見守ることしかできなかった。  
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