千歳

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何かが、ヒュッと電光石火の如く彼女の元に飛翔した。 白羽の矢であった。   方角から見て、間違いなく社の影から射かけられたものだった。 千歳は一言も発することなく突っ立っていたが、自らの喉を貫いた矢の先を不思議そうに見つめた。その小さな唇の間から大量の真っ赤な血がごぼり音を立て吹き出し、身を捩るようにふらりと倒れた。千歳はびくん、びくんと小さな体を震わせ、やがて動かなくなった。   一部始終を見ていた両親が硬直から解けて悲鳴を上げ駆け寄ろうとしたが、若い者達に取り押さえられた。動揺が広がる前に、長者はすかさず大音声を張り上げた。   「白羽の矢じゃ!!娘は山神様に娶られたぞ!!」   長者に言い含められていた有力者達がそれに続いてそうじゃ、そうじゃ、目出度いことじゃと大声を上げ、太鼓を叩いて騒ぎ立てた。   そして娘は、あれよあれよという間に予め用意されていた棺桶に放り込まれ、山の奥に担ぎ出された。それがどこに埋められたのか、知る者は誰もが口を閉ざした。  
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