千歳

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§ 復讐   果たして山神へ贄を捧げたお蔭なのか、程なくその一帯には大雨が降った。潤いを取り戻した山里は危機を脱した。長者は「贄の儀式」が成功したこともあって、その権威を更に盤石なものとした。 その後、例年山里の神社では、村に雨が降り注いだ日に祭りが行われるようになった。   それから十年目の祭日・・・ 長者は、村の衆の呑めや歌えやの騒ぎを目を細めて眺めていた。豊かになって行く村を、増えていく村人達を満足気な顔で眺めていた。   十年前のあの日、儂のしたことに間違いは無かった。儂の目に狂いはなかった。あれは山神様への贄として相応しい娘だったのだ。娘は山の奥深くにある、山神が棲むとされる杉の古木の根元に埋めた。そして山は蘇った。里が豊かになったことを、皆も喜んでくれているではないか。   あの娘の親は二人とも毎年祭りにも来ず、儂との関わりを極力避けている。だが、儂とてあの二人の年貢を軽くしてやったり、何かと便宜は図っているのだ。全て帳尻は合っている。   それにしても今夜の酒は格段に旨い。何故なら、孫の婚儀が決まったのだ。相手は隣村の長者の娘。これからも、儂らの一族は安泰じゃ・・・。 思わず口元に笑いが浮かぶ。
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