千歳

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“アハハハハハハハハハハハハハ”   娘に触れられた者達は皆例外なく苦悶の表情を浮かべ、血反吐を吐きながら踊り死んだ。 それはかつて、千歳の殺害と“贄の儀式”に関わった者達であった。そして、婚儀を控えた孫までもが、激しく咳き込みながら白目を剥いて倒れ、動かなくなった。   それらの出来事が、まるで墨絵を見ているかのように現実味を失くしていく。灰色の世界の中で、鮮やかな色彩が一つ・・・かつて彼が、直に娘に着せてやった赤い振袖・・・   「怨みを・・・晴らしに来おったか・・・」   震える声で呟いた長者の背後に、ふっ、と冷気が流れた。 すぐ後ろにいる。 すぐ後ろから、肩越しに儂の顔を・・・ 冷たい息が吹きかけられた。身動きが出来なかった。   “フフフフフフフ”   鈴を転がすような愉快そうな笑声が、耳元に響く。 赤い袖口からするりと伸びた白く細い腕が彼の首に絡まり、ゆっくりと喉を締め上げた。絞められた所から、ギリギリと音が鳴りそうな恐ろしい力だった。真綿で締めるように、娘は死ぬ寸前の苦しみをじわじわと長者に与え続けた。 ようやくその苦しみから解放された時、彼は白目を剥いて血が入り混じった泡を口から噴き出していた。 屋敷に居た長者の一族もまた、その殆どが一様に「赤い着物の娘」という言葉を残し喀血して死んだ。  
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