正体

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  「っきゃあああっっっ!!」 「ああ? なに? どうし……うおっ!!」 また、俺の姿を見てカップルが悲鳴を上げた。 すっかり慣れてしまった現実で、悲嘆したり憂えたり怒りを覚えることも、すっかり無くなった。 俺は人に嫌われている。生まれてこのかた、人から好かれたことがない。何故だろう、そう悩んで苦悩していたのは、もう遠い過去の話で。理由を求めるのにも疲れ果て、諦めて久しい。 俺の嫌われようは、恐らく『黒板を爪で引っ掻く音』に匹敵する。いや、それ以上かその倍かそれを遥かに凌駕するか。 だいたい、この世は偏見に満ちているのだ。 かの有名なアメリカの大統領、エイブラハム・リンカーンは、ゲティスバーグにて『人民の人民による人民のための』と高らかに演説し、黒人の奴隷制度を廃止した。 人間はみな平等だと唄い、差別を無くそうと努力した。 今からゆうに数年前の話で、黒人の大統領がアメリカを指揮し、世界のトップになろうなどと、その頃は誰も想像だにしなかっただろう。 しかしどうだ、この現実、この有り様は。 人は見た目で判断し、俺を避け、忌み嫌い、見下して、傷付ける。 俺が一体お前たちに何をした。 何を言った。 差別は何一つ消えていない。 平等な世界などくそ食らえだ。
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