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この間は、とある喫茶店で俺の悪口を語り合い、1時間も2時間も盛り上がっていた女の集団がいた。
俺ごときの悪口でその場が保てるなど、世も末だ。よほど話題に困っていたか、でなければ本当は俺のことが好きで堪らない集団だったのだろう。
そう思った方が俺が幸せだが、内容からは到底そんなプラス思考などイスカンダルの彼方へ吹き飛ぶ。
キモいだの、見るのも嫌だの、触られたら失神するだの、失礼極まりない悪口雑言が炸裂し続けた。
俺のことがこの世の中で最も嫌いなのだそうで、もう名前すら口にしたくないらしく、会話の最中はずっと俺のことを『アレ』呼ばわりだった。
常人ならば耐え難い熾烈な陰口を隅で聞きながら、それでも俺は、ひたすら黙って俯いていた。
こんなこともあった。
とあるスーパーを歩いていた時、何かの拍子で足がふらつき、俺は傍にいた女の肩にぶつかった。
その途端、女は悲鳴を上げた。
それはもう、店内といわず世界中に轟くが如き圧倒的な響きを持った、断末魔の悲鳴だ。末尾など巧妙なビブラートを披露し、『悲鳴』の手本のようだった。
俺がぶつかった左肩を、狂ったように右手で払いながら、女は無様なタップを踏んだ。
埃を払うなどという程度ではない。
雪を払うなどという規模ではない。
俺が触れた部分丸ごと、消えて無くなってしまえと言わんばかりに、激しく力強く肩を擦った。
例え肩が外れても、彼女は平気だっただろう。
俺が触れた事実さえ、少しでも薄れるならば。
……いやもう本当に。俺が一体何をした。
そんなに取り乱されたら、全力で走って逃げるしかないではないか。
女に限らない。男だってハチャメチャだ。
俺を見た男の反応は、3種類に別れる。
まるで俺の存在など無かったかのように視線を反らし、完全に無視してその場を去るか。
『うわあ!』と情けない悲鳴を上げて逃げ出すか。
最後は、これが最も俺にとって苦手な反応だが、なぜか怒りの表情で獰猛に俺に向かいかかってくるか。
無視や悲鳴は耐えよう。しかし、喧嘩を売るのは勘弁してほしい。
俺は喧嘩が滅法苦手なのだから。
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