Royal Fraternity

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雄大な山間に位置する厳しくも豊かな王国、ウェイデルンセンには若き王が君臨している。 王位を継承した当初は色々と囁かれていたものの、七年目の今では国民の誰もが認める尊敬すべき存在だ。 雪化粧にも負けない美しい真白の城内で、今日も王は何物にも揺るがない落ち着いた態度で政務をこなしていた。 「少し、休んではいかがですか?」 新年早々に隣国の招待を受け、しばらく留守にしていた関係で溜まった書類仕事に精を出していた弱冠二十歳のファウストは、ベテラン側近のヘルマンの提案に顔を上げずに拒否をする。 「ファウスト王」 呼ばれた名に叱責の含みを感じて顔を上げれば、それに似合う顔付きのヘルマンが立っていた。 これ以上逆らえば、聞きたくない痛い言葉が飛んでくるとわかったので、ファウストは固まりかけた指を無理やり離してペンを置く。 ヘルマンは黙礼すると、廊下の伝令役に茶菓子の用意を頼んだ。 自分で行かない辺りが、信用のなさを物語っている。 そんな様子を見て完全に諦めたファウストは、机を離れて伸びをした。 私室ではないが執務室脇の休憩場所であり、人払いをしているのでそこまで威厳を気にする必要がないからできる仕草だが、そもそも、まだ年始めの内なので急ぎの案件があるわけでもなく、根を詰める必要など全くなかった。 あるのは、(私的な)現実逃避をしたい時に特別仕事に精を出すというファウストの悪癖くらいだった。 あのまま作業を続けていれば、せっかく考えないようにしている、とある現実をヘルマンに徹底的に突き付けられていた事だろう。 王様業務に関しては異論なく無言で手助けしてくれるヘルマンだが、意外にもファウストの私的な部分には容赦がなかった。 紳士的な微笑みでからかいもするし、時には嫌味さえも言ってくる。
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