はじめての運転免許証

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女性は、受験票を受け取ると、テレビのリモコンくらいの大きさの機械を取り出す。 受験票と、彼女が首から下げている札にあるバーコードを、ピッピとその機械に押し付けているようだ。 運転免許証は、身分証明にも使える、とても大事なものだ。 取り違えや配達間違いなどは許されない。 それもあって、厳重にチェックをしているのだろう。 「……はい、しかと、沢渡 健司さんと確認取れましたですよー」 これで晴れて車を運転できる。 車を購入して女の子をドライブデートに誘うことができる。 「はじめまして、私、運転免許証の多々良 美奈子(たたら・みなこ)というですよー」 不意に目の前の女性が、自己紹介を始めた。 今、「運転免許証の」とか言ってなかったか? 気のせいだろう。気のせいだ。 「運転免許証歴、1年未満の新人ですが、どうかよろしくお願いするですよー」 運転免許証「歴」って聞こえた気がするのだが。 そして、その場に立っているだけで、一向に運転免許証を渡してくれない。 「多々良さん、で、運転免許証を持って来たんじゃないの?」 「はい、運転免許証として訪問したですよー」 話がわからない。彼女は何を言っているのだろうか。 運転免許証?運転免許証歴? 何度考えても、そんな会社名や団体名は思いつかない。 そうか、この娘(こ)、こんなにかわいいのに、頭は残念なひとなのか……。 こんなひとに関わるのは、やめた方がいい……。 そうか、運転免許証を交付しに来たひとではないかもしれない……。 「……すみません、宗教は間に合ってます……」 「……えっー?ちょっと、そうじゃなくてー……」 彼女は何か言っているが、俺は強引にドアを閉める。 これは、聞いたことはなかったが、このような宗教勧誘があるのかもしれない。 強いて言えば、「運転免許取得勧誘」というものか。 運転免許取得に際して、無理矢理入り込み、思い込ませて、勧誘していく……。 気を付けないとな。 しかし、巧妙だった。受験票のチェックや俺の名前も知っていたし、世の中恐ろしい……。
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