はじめての運転免許証

4/10
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
ピンポーン 「沢渡さん?」 ピンポーン 「沢渡さーん」 ピンポーン 「さわんど、さーん」 ピーン ポーン 「さわんど……さーん」 ピーン ポーン 「……」 しばらく鳴っていた。 でも俺は、無視を決め込んだ。 性懲りもなく、女性は俺の名前を叫んでいるようだ。 「……こんなに呼んでいるのに、出てくれない……」 ドア近くで何かを呟いているようだ。無視だ無視。 「ビエーーーーーン」 とうとう女性は泣き出したようだ。 外聞に悪いので、仕方なくドアを開ける。 先程の女性が、半べそを書きながら、立っていた。 俺を見ると、安心した顔をしている。 「……グスン……ひどいじゃないですかー、心が折れるですよー」 「アンタ、もの凄く怪しいから」 「……私は間違いなく、運転免許証ですよー」 「わかったから」 「沢渡さーん、これを読んで欲しいのですよー」 彼女は、冊子を渡してくる。 受け止めるつもりはなかったのだが……。 冊子には「新たに運転免許証を受け取る方々へ <人型編>」と書いてあった。 その下には、県の公安委員会や免許センターの名前も記入されていた。 それらしいつくりをしている。 冊子を手に取り、最初のページを読んでみる。 新たに運転免許証を取得したアナタへ おめでとう、アナタは5万人の中から選ばれました。 人型の運転免許証が配布されます。 運転免許証といいますが、そのひとは、国家公務員です。 運転免許証という仕事に誇りを持っています。 これから3年後の免許更新まで、運転免許証として、一緒に生活してください。 尚、生活費は、近くの役所で手続きをしてもらえれば、支給いたします。 ……なんと、そんなことが……。 「……えっ?人型の運転免許証って……」 「ハイ、私のことですよー」 「国家公務員って……マジで?」 「はい、運転免許証になるべく国家試験があるのですよー」 「……俺と一緒に生活って……本当?」 「……運転免許証なので、当然ですよー」 普通に笑顔で、返された。 簡単に一緒に暮らすことを了承するなよ……。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!