一日目

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 黒っぽい針葉樹の山を背にした東の対屋の屋敷は相変わらずいかめしい。  村の他の家は赤っぽい瓦屋根のものが多いが、この屋敷の瓦は艶消しの黒だ。重々しく待ち構えている門を、白いトラックはカタカタと軽快に抜けていった。 「やれやれ、ご苦労さんでしたな」  広くとられた前庭に車を止めると、智生はまたもや軽々とスーツケースを持ち上げた。健一はすっかり恐縮してしまって、奪うようにスーツケースを手にした。二週間分の荷物の重みが一気にグッと腕ににかかって転びそうになる。 「いいですいいです、おとうさん。ほんと自分で持ちますから」 「ええかえ?これから大変だけ、あんまり疲れんほうがええよ」 「え?」  不思議そうな顔をする健一に智生の方も戸惑ったようだ。 「夏生から何にもきいとらんかえ?」 「なんか行事がいっぱいある、くらいしか……」 「ああ、ほんにつき合わせてすまんけど、色々あっだけ。田舎だけなぁ。都会の人には意味分からんようなもんもあるかもしれんけど、形ばかりでええけ、気楽にしなれ」 「はぁ……」  気楽に、とは言うものの智生の表情は本当に申し訳なさそうだった。
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