一日目

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「みんな用意できたね、そんなら行くよ」  ハーイ、と健一以外の六人は智生に明るい声で返事をした。全員、額に白い三角形の布切れをつけている。健一はさらに水色のTシャツの上に白い裃を着せられた。 「じゃ、健一くんは一番最後からついてきて」  智生を先頭に永子、義兄の朝生、ついで智生の妹輝生、輝生の夫の君彦、二人の娘である高校生の明日香と中学生の久香、健一の順に一列に並んだ。健一はどこに行くのかも知らさせていない。うしろから「あの……」と声をかけると、前にいた久香が「しぃっ」と唇の前に人差し指を立てた。  永子が振り返って 「門から出たら、声だしちゃいけんよ」 と告げた。 「あと、振り返っても、いけんよ」  久香が付け加えた。二人の口調には強い禁忌感があり、健一は義父母と相対していた時とは違う意味で、緊張した。  黙々と畑道を歩いて山のすそににたどり着いた。そのまま山の端に沿って道は伸びている。杉林の間から差し込む日の光は弱かった。真夏だというのにひんやりした空気が漂っている。白く乾いた道からは歩を進めるたびに煙のような細かい砂埃があがった。  谷間の草むらに少し開けた空き地があり、空き地の縁に沿って円形に、漬物石ぐらいの大きさの丸みを帯びた石が一〇個ほど置かれていた。永子は無言で手に持っていた竹かごから手のひらに乗る程度の長さの木切れを数本、智生の手に渡した。智生はライターで木切れに火をつけ、石の描く半円の真中に置いた。永子がまた竹かごに手を突っ込むと、手のひらに乗るくらいの、お惣菜をいれるようなタッパーが現れた。智生はタッパーから何かをつまんで、皆に背を向けてしゃがんだ。健一からは何をしているか全く見えない。
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