89人が本棚に入れています
本棚に追加
クルリと背を向けた僕に、「待て待て」と彼の手が伸びる。ガシリと腕を掴まれて引き戻された。
「イヤです。犯罪者の片棒担ぐのは」
『歯科医師、飲酒運転で逮捕』なんて、新聞の見出しが脳裏に浮かぶ。酷ければ『飲酒運転で事故』になっているかもしれない。
それに『人身』まで付いたら、どうしてくれるんだ。
「なんですか。ペーパードライバーの僕に運転しろとでも言うんですか」
「いや、それはカンベンしろ。俺はまだ死にたくない」
「うっ」と返す言葉もなく睨むと、彼は「いや、冗談だ」と軽く笑った。
「ホテルで飲もう。な? じゃあ上に泊まれるから、問題ないだろ?」
「え? 家には、帰らないんですか?」
心底驚いて訊き返す。確か奥さんは、身籠っていた筈だ。
すると彼は、拗ねたように唇を尖らせた。
「あいつ今日、実家に帰ってるんだよ。引き止められて、今日は泊まるつもりらしい」
「ああ、そうですか」
――なんだ、そうなんですか。
最初のコメントを投稿しよう!