5/7
前へ
/136ページ
次へ
 クルリと背を向けた僕に、「待て待て」と彼の手が伸びる。ガシリと腕を掴まれて引き戻された。 「イヤです。犯罪者の片棒担ぐのは」  『歯科医師、飲酒運転で逮捕』なんて、新聞の見出しが脳裏に浮かぶ。酷ければ『飲酒運転で事故』になっているかもしれない。  それに『人身』まで付いたら、どうしてくれるんだ。 「なんですか。ペーパードライバーの僕に運転しろとでも言うんですか」 「いや、それはカンベンしろ。俺はまだ死にたくない」  「うっ」と返す言葉もなく睨むと、彼は「いや、冗談だ」と軽く笑った。 「ホテルで飲もう。な? じゃあ上に泊まれるから、問題ないだろ?」 「え? 家には、帰らないんですか?」  心底驚いて訊き返す。確か奥さんは、身籠っていた筈だ。  すると彼は、拗ねたように唇を尖らせた。 「あいつ今日、実家に帰ってるんだよ。引き止められて、今日は泊まるつもりらしい」 「ああ、そうですか」  ――なんだ、そうなんですか。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加