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マンションの少し手前でタクシーを降りる。
酔いなんてもう残ってはいなかったが、フラつく足を1歩1歩踏みしめた。
――なんて事を、してしまったんだ……。
吐き気にも似た『何か』が、体の奥底からせり上がってくる。
それは羞恥か、後悔か。
呻き声が洩れそうになる口を、必死に掌で押さえた。
気を抜くと、甦る。
ベッドに横たわる彼に跨り、腰を振っていた自分の姿。
厚い胸板に手を這わせ、酒に潤んだ瞳を見下ろして、吐息を洩らす彼の姿に酔い痴れた。
「だって……!」
彼が、好きなんだ。
力が抜けて、しゃがみ込んでしまいそうになる足を必死になって前へと進める。
そんなつもりなんてなかった。酔った彼を部屋まで運んで、ベッドに寝かせて、自分も隣のベッドに入る。
たった、それだけの事だったのに……。
コートとジャケットを脱がせ、ベッドに横たえた途端、不意に彼の目が見開かれた。
間近で見つめ合って、酒の所為で掠れた声が、僕の名を呼ぶ。
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