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引き寄せられた唇は、当然のように重なって、すぐさま熱い舌が絡み合った。奥さんの妊娠で溜まっていた彼は、欲望を吐き出す事に、 とても貪欲だった。
――いや、違う。
違う。誘ったのは……僕だ。
溜まっていたのも、欲望を吐き出すのに貪欲だったのも。
この瞳で彼を求め、酔った彼を取り込んだ。
「なんて……事……」
どんよりと重い頭でいくら考えても、埒が明かない。
置手紙を残し、部屋を出る時に見た彼の寝顔だけが、何度も脳裏に蘇った。
「あれ?」
マンション玄関の植え込みに誰かが腰掛けているのが見えて、思わず腕時計を見る。
もう深夜の3時を回っている。自分の事は差し置いて、酔っ払いかと警戒しながらゆっくりと足を進めた。
「あっ。――君は……」
なんで、こんな時間に。
黒いダウンジャケットを着た影が、振り返る。向こうも驚いた表情を浮かべ、白い息を吐き出しながら笑顔を浮かべた。
「先生。なんだよ、酷く遅くねぇ?」
スマホで時間を確認して、立ち上がる。
「藤堂君こそ、こんな遅い時間に何してるの?」
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