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 電気を付けると、彼は物珍しげに質素な玄関から廊下にかけてをグルリと見回した。 「お邪魔します」  好奇心にニヤニヤと笑いながら、靴を脱ぐ。そうしてすでに脱いでいた僕の靴と自分の靴を、揃えて置き直した。 「躾がちゃんとされてるんだなぁ」  感心して呟くと、驚いた表情を浮かべた彼は「違うね」と吹き出した。 「中学ん頃、遊びに行った女の家でさ、そいつがしてたんだよなぁ。そいつん家はいつも玄関が綺麗でさ、整頓されてて、スゲェ気に入ってたんだ」  そう言いながら、僕の靴の埃を手で撫でるように掃った。 「うちの母親はそんなの全然気にしねぇの。服も脱いだら脱ぎっぱなしって感じ。俺が毎日靴揃えてんのにも気付いてねぇよ」 「――僕も、そっち派かも」  呆れられるかと思ったが、意外にも彼は笑って同意した。 「実は俺も。あいつとは、住む世界が違ってたんだよなぁ」  懐かしむような声は、きっと彼の初恋の相手だったからに違いない。
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