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「丸山さん、印象練って」
夕方から夜にかけての歯科医院は忙しい。
他の歯科医院でもそうだろうが、ショッピングモールに入っているここでは、それは尚更に感じられた。
「お椅子倒しますね」
口をいつまでも濯いでいる患者さんに声をかけ、虫歯を削った処の型取りをする為にチェアを倒す。
「先生、印象お願いします」
はっきりと通る声に頷いて右手を差し出すと、寒天と印象材がタイミングよく順番に手渡された。
確か26歳だったと思うが、この丸山さんという助手の女の子は、自分と息が合っていて仕事がやりやすかっ た。
「久坂先生。院長が、3番チェアの患者さんの問診をお願いします、との事です」
丸山さんとは違う、少し澄ましたような口調の西坂さんという受付の子が声をかけてきた。
年齢は、丸山さんより少し上だろう。
この少しツンケンとした口調は、最初の頃はカンに触ったが、最近では「癖なんだな」と納得していた。
「お待たせしました」
チェアに座っている患者さんに声をかけ、横の棚に置かれたカルテを手に取った。
「今日はどうされました?」
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