2/8
前へ
/136ページ
次へ
「本当に、散らかってるからね」  念を押しながら電気を点ける。明るくなった室内に、彼は「へぇ」と声を洩らした。好奇心に満ちた瞳が四方を見渡す。 「洗面所は廊下の右のドアだから、手洗って口濯いでおいで。冷やさないと」  ガスのスイッチを入れて自分もキッチンで手を洗いながら、藤堂君に声をかける。ハッとした彼は、「はいッ」と小気味よい返事を残し、リビングから走って出て行った。 「これで冷やして」  保冷剤をハンドタオルで巻いた物を、戻って来た藤堂君に手渡す。 「すみません」  ペコリと頭を下げてそれを受け取ると、ゆっくりと腫れた口元へとあてた。 「折角のかっこいい顔が台無しだね」 「今、洗面所の鏡で見たら結構腫れてたから、自分でもビックリした」  ヘヘッと笑いながら、10帖程度の部屋を見回している。 「そんなに、興味あるの?」  好奇心の塊のような瞳に問いかける。すると彼は、「1人暮らしの人の部屋にあがるの、初めてだから」とまた笑った。 「先生はさ、なんでこんなに帰り遅かったの?」
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加