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 ソファへと腰掛けながら、問いかけてくる。その瞳がガラステーブルの上の情報誌に注がれているお陰で、僕の動揺は気付かれなかったようだ。 「……院長と、飲んでたんだよ」 「院長? ああ」  目線を上にあげ、納得したように頷く。 「あの先生ってさ、若くない? 先生とあんま変わんないでしょ?」 「僕より3つ上だから31かな。もうすぐ『お父さん』になるんだよ」 「へぇ」  興味を示した彼は僕を見上げ、ニッコリと微笑んだ。 「いい親父になりそうだもんね。――そっかぁ。じゃあ久坂先生と俺は、11歳も違うのか」  そう言うと、情報誌を手に取ってパラパラと捲りだした。  『いい親父』という言葉に胸が痛む。本当は、叫び出したいくらいだった。  ネクタイを外し、ボタンを緩めた。  ――なんだか、息苦しい。 「コーヒーでいい?」  そう言いながら、ケトルを火にかける。自分の声が普段通りなのが、不思議でならなかった。 「うん。ありがと」  1度顔を上げた彼は、すぐさま雑誌へと視線を戻す。
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