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 僕はそう呟いて、彼の前に屈み込んだ。 「異常なんかじゃないよ。君ぐらいの歳にはね、溜まって当然。セックスに興味を持って当然なんだ」  顔を隠している腕を、そっと引き剥がす。戸惑いと羞恥に潤んだ瞳は、しかし真っ直ぐに僕を見返した。 「ほんとに?」 「うん。僕にも経験がある」 「マジで?」  彼の目に好奇心が甦って、思わず笑ってしまった。 「……ねぇ。キスした事ある?」  あいつと同じ台詞を吐く。見開かれ、揺れた瞳に、ゆっくりと顔を近付ける。あいつがしたように、頬にそっと掌で触れた。 「――なあ。先生」  唇が触れようとした時、彼の刺すような声で我に返った。顔を離した途端、彼の指先が鎖骨のすぐ下に触れる。 「これって。 ……『アレ』だよね」  彼の指が、何に触れているのかは見なくてもすぐに判った。  ――赤い痕。  それをなぞるように、ゆっくりと指を動かしている。  バッと彼から離れ、襟元を掻き合わせた。  迂闊だった!  驚愕に呆然としていた彼の顔に、怒りが浮かぶ。
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