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「院長と一緒だったって言ってたよね? それに、もうすぐ父親になるんだって」  両手に拳を握り、一旦堪えるように膝に置くと、すっくとそのまま立ち上がった。何も言わずに、ジャケットを掴んで廊下へと歩いて行 く。 「ちょっ、ちょっと。藤堂君」  慌てて追いかけ、廊下でようやく腕を掴んだ。 「触んなッ!」  振り払うように、彼が暴れる。 「ちょっと、話を聞いてよ」 「お前等ッ、最低だッ!」  振り返り、叫んだ拍子に彼の唇の端が再び切れて、細く血が流れた。  キッチンのケトルが悲鳴をあげ、玄関が大きく音をたてて閉まる。  ポツンと。  出て行く時に彼が引っ掛けた僕の靴が、乱れて転がっていた。  ――本当に。最低だな、僕は。
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