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 声をかけながら、問診表に目を通す。藤堂 孝太(こうた)と書かれた下の欄。紹介者の欄には、『久坂 宙(ひろし)』と自分の名前 が書かれていた。 「……えっ?」  驚いて思わず声を洩らしてしまう。憶えのない患者名に顔を向けると、相手は悪戯が成功したというように、 子供っぽい笑みを浮かべていた。 「――あっ。君は……」 「こんばんは」  パーカーにジーパンという姿の為に思い出すのが遅くなったが、マンションのエレベーターで朝よく一緒になる少年だった。  いつも見かけるのは詰襟姿なので、印象が大分違う。 「ああ。誰かと思った。藤堂君って言うのか。それで、今日はどうしました?」 「いえ。ちょっと歯石を取ってもらいたくて」 「そうですか。では、診てみますね」  チェアを倒して口の中を覗き込む。ミラーを使って全体を見ると、虫歯はないようだが、歯肉のそこ此処に 擦った真新しいキズが出来ていた。 「歯医者に来るからって、頑張ってハブラシしてきたでしょう?」 「え?」
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