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「……宙」
雅臣が身を乗り出すようにして、僕の名を呼ぶ。
「冗談はウソ」
息を吹き込むように、耳元で囁かれる。
「……あっ…」
頬は熱かったが、添えられたあいつの掌が熱いのか、自分の頬が熱いのかは、判らなかった。
触れるだけの唇が何度も角度を変えて重なる。
鼻の奥にあいつの匂いが広がって、いつの間にか、雅臣にも繰り返されるキスにも、夢中になっていた。
雅臣がゆっくり離れていく。唇の周りにまで唾液が付いていて、急いで腕で拭った。
「宙」
呼ばれて隣を見ると、雅臣が同じように手の甲で唇を拭っていた。
「お前の匂いがする」
そう言って、拭った手の甲に唇を押しあてる。
「バカッ! やめろよ、そーいうの」
剥がそうと手を掴むと、逆に掴み返された。
「俺の、初キスをお前にやるよ」
やけに艶のある声で、雅臣が囁く。
「そんなの、僕のだってッ」
ムキになって言い返して、雅臣に笑われた。
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