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 なんで判んの? と。無邪気に見上げてきた瞳が言っている。思わず笑みが零れそうになっていると、「確認お願いします」と丸山さんが取ったばかりの印象を見せにきた。 「濯いでて下さいね」  藤堂君のチェアを起こしながら言って、先程の患者さんの所へと戻る。  ここではいつもの事とは言え、なんだかバタバタしているなぁ、と自分でも思う。 「仮のフタはくっ付きやすいものですぐ取れてしまいますので、気をつけてお食事していて下さい」  お大事に、と見送ってカルテを西坂さんに手渡す。次の患者さんが入って来る前に、藤堂君のチェアへと戻った。 「失礼します。もう1度倒しますね」  僕が戻るのに気付いていた丸山さんが、藤堂君のチェアを倒し、胸にタオルをかけている。  先程の「歯石を取る」という会話を聞いていたのだろう。チェアを挟むように立って、いつでもバキュームが 出来るように準備してくれていた。 「ええっと、そうそう。強く擦りすぎて、歯ぐきにキズが出来ていますよ。ゆっくりやさしくハブラシするよう にして下さい」
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