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歯石を取る為のスケーラーという器具を手にした途端、「印象ッ」という院長の声が聞こえてきた。
その声に、僕と同様丸山さんも視線を向ける。
この医院の助手は丸山さんだけではなく、村上さんというベテランの女性がいるが、彼女は抜歯をした患者さんに薬の説明をしていた。
こちらを向いた丸山さんに、行ってもらって大丈夫だよと頷いてみせる。
パタパタと小走りに行く彼女に目を遣って、藤堂君がクスクスと笑った。
「先生、フラれちゃったね」
「まあね。いつまで経っても、院長の人気には勝てないんだよね」
冗談っぽく返すと、「そうなんだ?」と笑いながら藤堂君の目は院長を追った。
「じゃあ、お口開けて下さい」
左手に持ったバキュームで、スケーラーから出る水と唾液を吸いながら歯石を取っていく。
取りあえず下顎の歯石だけを取って、「濯いで下さい」とチェアを起こした。
「今日は下の歯の歯石だけを取っておきましたからね。前歯の裏は歯石が付きやすい所なので気を付けて下さい」
カルテを記入しながら言って顔を向けると、先程とは打って変わって彼は真剣な表情で僕を見つめていた。
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