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「この程度で『帝』だと? 笑わせる……。黒様がどれほどの時間をかけて、どれほどの労力を費やして、ギルドが『最強』と言われたのか、お前らは理解していない。お前らごときが『帝』を名乗り、不相応な行動をしていることな私には耐えられない」
レイは手を動かした。
雷帝の首に見えない細い糸が巻きつけられる。皮膚が切れてプツと血が垂れる。糸は肉と骨を容赦なく切断するだろう、それもまるで切れたことすら疑うほど、キレイに。
「お前らは知っているはずだ。フロルガーデンが誰の手で形を成せたのか──。お前らの『帝』という称号が誰によって作られたかも、雷帝そして全帝、お前らは知っているはずだ」
「……俺たちはっ、グ、自分の称号に甘んじているわけではない。俺たちは俺たちなりに、この世界の未来を考えて……!」
「この世界の未来をお前が語るな。この現状すら理解し切れていないお前が。なぜ、私がお前に殺意をつけるのかわかっているのか? 称号を与えられても、素性を一切隠すことを確約された理由を理解しているならば、わかるはずだ」
「まさか……」
「そうだ。しかしそこまで理解できても、お前はすべてを理解し切れていない。黒様の素性を知ることがどれほどの爆弾を抱えるのか──私ですらまだ想像の域に達していないというのに……」
彼女の殺意は本物だ。教師や生徒の関係など全く気にもしない。躊躇なく、俺を殺しに来ている──。
「忠誠心か……」
雷帝は呟いた。そして、失笑する。
彼女は確かに強い。決して侮っていたわけではない、しかし弱気になっているわけでもない。最初からわかっていた。彼女を動かしているのは『忠誠心』だ。たったそれだけの人間に、俺が負けるわけない──!
「俺は『帝』の称号を頂いたときから、自分が決めたことは一切曲げていない。この世界から戦争をなくす。誰も死なない、誰も傷つかない、そんな世界を作る。俺は今までの自分の行動に失敗はあっても後悔したことはない!」
「ならば、黒様と一戦交えたことも後悔はないと言うんだな?」
「そのとき、その瞬間に、俺は自分が信じた行動をしたまでだ。後悔はない」
「ならば、死ね──」
「簡単に殺されてやるか!」
レイが指先を動かしただけで、周囲の糸はキュインと音を立てて突っ張る。雷帝の首の糸が縮まる──その瞬間、ビチィィィィッと音を立てて光が放った。
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