『糸乱』

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襲撃事件から一ヶ月が経過した。フロルガーデンと軍の協力により、学園の修復作業や支援活動は滞りなく進んでいる。 黒色の異形は学園の敷地を壊滅させ、美しい敷地も巻き込まれた自然物も殆どが死滅した。学園の校舎には一切傷がつかなかったのは本当に奇跡と言っても過言ではない。敵襲よりも、最も予想外であった帝の登場により、窮地にも校舎が破壊される寸前であったがそれを止めたのは紛れもなく漆黒を纏う人間のもの。幸い、帝の失態は衆知されていない。それすら敵の放った魔法だろうと校舎から目撃した大多数のヒトが想像した。それ以上に、皆が注目したのは、それを防いだ黒い人影の存在であった。タイミングよく現れたレイの存在が、黒い人物の正体を漆黒の元帥ではないかと誰もが確信を得て噂した。 レイの存在が、本当にあの『最強』の右腕だと豪語するに相応しい人物なのか? 十六歳の少女が? 虚言ではないのか? と、疑われなかったわけではない。 しかし認めざるを得ないのだ、救援に駆けつけた最強ギルドの隊員らが彼女の指示に従う光景を見せつけられれば。また、彼女がギルドの総帥直々に司令官を任されたとあれば。 それは彼女の実力を信用されただけにあらず。漆黒の元帥から総帥へ彼女を頼るように伝えられ、全て彼女の指示に従うようにギルド全体へ命じたことが起因である。つまり、世界最強の称号の保持者と言えど、たった一人の言動で国内一の規模を誇る最強ギルドを動かされるほど、漆黒の元帥の存在は大きいということを意味している。
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