『糸乱』

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ガラリと教室の扉を開く。 「すみません、遅れま……」 教室に入ると、レイはクラスメイトから異様な目で見られた。憧憬、畏敬、悔恨、羨望──慣れたはずの視線に久方ぶりにゾクリと背筋を這う。自分の今の立場を考えれば、彼らにとって異端者と何ら変わらないのだ。覚悟していたことだ、今更後悔はない。 「すみません、用事があり少し遅れました」 「あ、ああ。いいんだよ。席に座りなさい」 狼狽する教師に一礼して、レイは自席についた。 「れ、レイ……」 隣からアミーゼ声をかけた。 「大丈夫……?」 「何が?」 「……ぇ、あ、いえ……」 気まずげに伏せられた顔。 彼女もまた皆と同様に、立場の違う自分と関わるのを恐れているのだ。クラスメイトだとか、同年代の友人だとか、そんなものにはもう戻れないのだろう。これも覚悟していたことだ。自分と彼らは生きてきた環境も住む世界も違うのだ。 「大丈夫だよ」 レイは笑って返した。 何に対する返答なのか自分でも明確にはわからない。しかし彼女の懸念が少しでも減ればいいな、と思った。
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