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「立ってする話ではないな、執務室に行くか。レイ、温かいお茶を入れてくれ」
「かしこまりました」
レイはオルドの一歩後ろをついて歩く。
すると、唐突に「あ!」と背後にいた門番が声をあげる。振り返った先に見たその顔は驚愕に目を見開いている。
「コンって、まさかあの紺……ですか?」
レイは首を傾げる。「あの」とはどいうことだろうか。
もう一人の門番もまた疑問を抱いた。
「知ってるのか?」
「知らねぇ奴はいねぇよ! 『紺』っていやぁ、『漆黒の元帥』の唯一認めた側近だろ! 噂じゃあ、『紺』は女って言われてたから間違いねぇっ」
「『紺』って女なのか!? 実力じゃ帝と同等かそれ以上って言われてるんだぞっ。そんな女がこんな子供のはずがねぇ」
「それは、まあ確かに……。だが、実際に総帥が彼女を『紺』と呼んだだろ。それに、『紺』なら所属部隊が空欄なのも辻褄があう」
「しかしなあ……、どう見ても彼女は十代だろ」
「……総帥、彼女は本当にあの『紺』なのでしょうか?」
総帥は二人の門番に対して微笑んで返した。誤魔化されたような反応だったが、意外にも彼はレイに彼らの返答を求めた。
「だってよ、自分のことなんだから自分で答えたらどうだ?」
「そう言われましても、私は他人の評価に興味がありませんので自分がどう見られている存じておりません。私は黒様以外に興味ありませんので」
「行くぞ」
たった数言で、二人はこの場を去り、残された二人の門番は立ち尽くす。
レイの返答はその数言で十分であった。 他者に向けたその言葉が、彼女を『紺』であることを確信付けた。
「噂は本当だったんだな……」
「流石は『黒の番犬』──」
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