『糸乱』

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重々しい空気が三人を包む。その起因であるレイは平然と立ち、二人は大の大人でありながら息をのみ、僅かな恐怖感で背筋をぶるりと震えさせた。 レイの軽装は、決して二人を侮っているわけではない。これが、彼女の本来の武装なのだ。軽装故に防御力は低い。しかし、軽装故に誰よりも早く誰よりも軽く、そしてしなやかに動くことができるのだ。それが彼女の戦い方。 さらに、彼女の両手には分厚い革と鉄で覆われた手袋がつけられていた。それが、彼女の愛器、『(シルティ)』である。髪よりも細く、肌をも透き通るほどの透明度の高い糸が、手の甲にあたる鉄部分に何重にも巻き付けられている。しかし、幾重にも重なっていながら、それを肉眼で見ることはほぼ難しいほどの細さと透明度。そして、何よりもその切れ味は岩どころか山をも削ぎ、その頑丈さは過去最大で三十人ほどの人間を支えたことがある。 レイは手袋から糸を垂らした。スルスルっと音もなく、足元に重なって落ちていく糸。しかし、それを目前の二人が見ることも、そして気づくこともなかった。 「雷帝、私の質問に答えなさい」 「……その前に、その敵意をやめないか。俺たちは、争いたいわけではないんだ」 レイが口を開くと、雷帝はこの場を空気をかき消すように笑みを浮かべた。 しかし、そんなことでは理性を保ちきれていないレイの心を変えることはできない。 「黙りなさい。質問しているのは私です。あなたたちの意見など一切聞いていない。私が敵意を向けるか向けないか、あなたの返答次第です」 「……っ。質問って、なんだ……?」 恐る恐ると、雷帝が口を開いた。 「あの日、学園が襲われたあの日、雷帝とそして全帝、あなたたちはバケモノと戦ったことを教えてくれましたね」 「ああ……。確かに僕らはあの黒いバケモノと戦った。それが質問かい?」 「いいえ」 レイは全帝の言葉を否定した。
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