星の降る丘

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「それでは参りましょうか。」 女と私と、一匹増えた小さな白い兎はまた、上へと歩み始めた。 どれくらい歩き続けたであろうか。「着きましたよ。」と女は不意に行った。 その瞬間、藍色の世界だった視界が、一気に開けた。 眩しい。私は咄嗟に目を瞑る。瞼の裏からでも、眩しい。 ゆっくりと薄く目を開く。その瞬間、わたしは眩しいのも気にならぬ程驚き、目を見開き、思わず感嘆の声を上げた。 銀色の世界が広がっていたのだ。 「これは……何なのだ?」 私は女に尋ねた。女は楽しそうに笑った。 「これは、空にしかない宝石ですよ。」 空にしかない宝石……その言葉をそっと呟く。 「お先に失礼しますよ。」 そう言って、小さな白い兎が飛び跳ね、先を駆けていく。女は振り向くと、私の手を引いた。 「さぁ、私達も拾いましょう。」 「嗚呼……。」 私は、高揚する気分を抑えることはできずに、弾んだ調子で返事をした。そこら中に散らばる、眩しいくらいに輝く銀色の夜空の宝石達に、私は目を細める。はやる気持ちを押さえつけながら、ゆっくりと手を伸ばした。 この世の物とは思えない位の美しいキラキラと手の中で輝く小さな銀色の宝石が、私の右の手の中にある。私は自然と笑顔になった…その時。 体が傾いた。足場が崩れ落ちたのだと、落ちていく中、私は思った。必死に手を伸ばしている女の姿が遠ざかっていく。 私は死ぬのだろうか。ぼんやりとした頭の中で、そう考えた。そしてそっと、瞼を下ろしたのだ。 「もしもし?もしもし?」 体を揺れている。私は重い(まぶた)をゆっくりと開いた。誰かが私の顔を覗き込んでいる。視界がはっきりとしてくれば、それは、巡査であると分かった。 「どうしたのかね。こんな所で寝ていて。」 訝しげな巡査の言葉に私は答えることはできなかった。ただ……何か、素晴らしいものを見たという事は覚えているのだ。 「いえ……何でもないのです。何も……。」 私は体を起こしながら、小さく首を横に振った。 「そうかね。それなら良いのだ。気をつけて帰りなさい。」 巡査は笑顔でそう言うと、側に止めてあった、巡査の物であろう自転車で去っていった。巡査の姿が小さくなっていく。 ぼんやりとそれを眺めながら、また、丘へと寝転がった。
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