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日々、戦いはあれど比較的穏やかな館の部屋で蜘蛛は壁から壁へと張られた様々な糸をぼんやりと眺めながら、変り、染められてしまった内心にホウと息を吐いて小さく呟いた。
「好きです」と。
蜘蛛が何百年ぶりかの恋愛相手は相手も立場も悪い人だった。
その人物は館の主でありドールの父、アースレイ。
館の主に相応しい美貌に知識、全てが完璧に近いアースレイに蜘蛛は恋をしてしまったのだ。
何回か吸血鬼である主の食事係を勤めたりと、何かと呼ばれたり、押し掛けたりもあったもだろう。
気づいた時には既に遅し。引き戻せないくらい片想いしていたのだ。
しかし、この蜘蛛。大変めんどくさい蜘蛛だ。
相手に絶対一言も気持ちを伝えず、また、本当の内なる思いを行動にも全く出さない。
昔マフィアだったからかは全くわからないが、蜘蛛は今回もそれを、いや今回こそそれを貫き通すと自覚すると共に決めたのだった。
あのアースレイだ。と、蜘蛛は思う。
奥方がいたのだと風の噂で聞いた。
そんな人に想いを勝手ではあるが寄せているだけでも罪悪感があるというのに、伝えられるわけがない。
と、同時に蜘蛛はある事を思った。
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