そのまま

1/1
前へ
/21ページ
次へ

そのまま

大切なものを見失うことで見つけたんだ。 見つけることで失ったんだ。 「僕は君にはなれないんだよ」 そうだ僕は僕にしかなれないんだ。 僕になれるのは僕しかいないんだ。 けれど 解っていても そう在ろうとする道は険しく困難で 僕は僕であることをいつの間にか忘れてしまうんだ。 いつからなのか いつまでなのか 皮膚に焼け跡を見つけるような痛みが日々積み重なって 罪を重ねて どうか僕を―― って。 助けて欲しいんだろうか。 責めて欲しいんだろうか。 死が欲しいんだろうか。 何もかもが解らないまま進んでゆく。 降り積もってゆく。 雪のように凍てついた声を 心を 僕は一体どこへ向かっているのだろう。 答えが欲しいのか 答えに縛られたくないのか 何も解らないまま 感覚だけが研ぎ澄まされ あるいは鈍く後退して 波に攫われたように上も下も解らなくなって 世界には上下があって 身分があって 見の程を弁えなさいって言われるけれど 波に攫われた僕にはそんなことはどうだっていいんだ。 ただ生きたいと思う心だけが大事なのに それすらできなくて そんな僕を そんな君たちを 僕は愛せるかな きっと愛せるよって そんな強がりはもういらないんだ。 愛せなくたって未来はやってくるよ。 朝はやってくるよ。 今はそのままでいい。 そのままがいい。 僕は空白のなかに有限を見たいわけじゃないから。 有限のなかに永遠を見たいんだ。 そんな矛盾を愛おしみ 勇気にかえることができたなら そこから始まるんだ 僕という結末が。 そしてそこからまた始まる何かを 今度こそは愛そうって 僕は言ったんだよ ずっと昔にね。 だから君もずっと昔に 希望も絶望も置いてきたんなら それを探す時がきたんだよ。 一緒には探してあげられないかもしれない。 それでも探すんだ。 未来はそう永くは待ってくれないから。 でも君は待っていてくれたね。 だから君は未来のその先にいけるんだ。 君は待ちきれずに牙を向くだけの未来に“その先”を描ける。 そのための力を得るための此れまでだったんだ。 腐ってなんかいなかったんだよ。 君はそんな君を愛して。 そしてこんな僕を憎むでも愛するでもなくいてくれればいい。 ただ、そのままで――
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加