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仕方なくゆいも春一の隣に並んで、手すりに腕をかけた。
中央のイルカプールでは、イルカたちがトレーナーの振る指揮棒に乗って、甲高い歌声を響かせている。
そのキュキュキュキュキューという可愛らしい声と、
「何を歌っているのか、さっぱりわかりませーん」
というトレーナーのおどけた案内に、客席からも穏やかな笑い声が巻き起こる。
平和な風景だ。
そんな風景の中、隣の春一だけが、まだ硬い表情をして会場内を目で追い続けている。
「ねぇ春一さん、イルカって可愛いですね」
ゆいが話しかけても、
「え、ああ……」
生返事しか返ってこない。
でもやがて、ふっと、春一の肩の力が抜けた。
横顔の頬が、柔らかくなっている。
まさかと思いながら、春一の視線の先を追ってみれば、ステージの前列の方に、冬依と鈴音の背中が並んで座っているのを見つけた。
ふたりは裏返しになってお腹をみせるイルカに、パチパチと無邪気に拍手を送っている。
春一は鈴音を見つけたのだ。
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