4 クリオネの捕食

2/13
100人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
仕方なくゆいも春一の隣に並んで、手すりに腕をかけた。 中央のイルカプールでは、イルカたちがトレーナーの振る指揮棒に乗って、甲高い歌声を響かせている。 そのキュキュキュキュキューという可愛らしい声と、 「何を歌っているのか、さっぱりわかりませーん」 というトレーナーのおどけた案内に、客席からも穏やかな笑い声が巻き起こる。 平和な風景だ。 そんな風景の中、隣の春一だけが、まだ硬い表情をして会場内を目で追い続けている。 「ねぇ春一さん、イルカって可愛いですね」 ゆいが話しかけても、 「え、ああ……」 生返事しか返ってこない。 でもやがて、ふっと、春一の肩の力が抜けた。 横顔の頬が、柔らかくなっている。 まさかと思いながら、春一の視線の先を追ってみれば、ステージの前列の方に、冬依と鈴音の背中が並んで座っているのを見つけた。 ふたりは裏返しになってお腹をみせるイルカに、パチパチと無邪気に拍手を送っている。 春一は鈴音を見つけたのだ。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!