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「誰か警察呼んで、早く」
「強盗事件なんじゃねぇ、おい」
「逃げろ!」
みな勝手なことを言いながら、バタバタと走り回っている。
何故だか、ゆいの目からは、まるっきり他人事のように、水槽の向こう側の魚たちの群れが騒いでいるだけのように見えた。
ゆいの喉元に付きつけられている刃物も、ギラギラ光って、銀色のアルミホイルを固めたもののよう。
全然、現実感がない。
ゆいを羽交い絞めにした男は、息を荒くしながら、ゆいの耳元で、
「あんたがひとりになるのを待ってたんだ」
と言う。
ゆいは驚いて、
「なんで? っていうか、あんた誰よ。私、あんたのことなんか知らないわよ」
言ってしまう。
だって本当のことだ。
こんな男、今日のさっきまで、会ったこともなければ見たこともない。
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