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相手はまったく知らない男なのだから、ゆいにストーカーされる覚えなんかない。
だから、
「ちょっとあんた、誰かと勘違いしてるんじゃないの。私は――」
ゆいが言いかけると、
「黙れ!」
喉元に、何かが擦れたときの摩擦のような熱を感じた。
「キャーッ!」
全然関係ないところで悲鳴があがる。
「ゆいさん、動くな」
今度は春一まで、決死の形相でゆいを諌める。
『なんだって言うのよ、まったく……』
そして首元の気持ち悪さに気が付いた。
もともと、海からの風は冷たいが、もっと冷たい何かが吹き込んでくる。
春一から借りたマフラーを、返してしまったように寒い。
まるで氷でも押し付けられたような、切るような冷たさ。
「!」
ようやく気がついて、ゆいはゴクリと息を飲む。
男の身体が密着している左側。
その左側の自分の肩が、血で濡れている。
さっきの熱さは、鎌で斬られたのだ!
「ゆいさん、動かないで」
春一だけが群衆の中から一歩前に出て、まっすぐにゆいの目を見つめながら真剣な顔で言う。
「じっとしてるんだ。すぐに助けるから」
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