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男は左手でゆいの腰を抱き、右手に持った大鎌の刃を、ゆいの喉元に付きつけている。
男のハアハア言う息が耳のすぐ近くで聞こえ、妙に熱くなった身体が無理やり押し付けられるのが、ものすごく気持ち悪い。
だけど、ゆいはもうピクリとも動けない。
自分の血を見て、やっと実感出来た。
これは現実なのだ。
水槽の中の他人事じゃない。
少しでも動けば、するどい鎌の刃がゆいを襲うだろう。
「なあ……」
春一は少し悩みながら、
「そこの、君」
と男を呼んだ。
名前を知らないのだから、こういう呼び方をするしかない。
「彼女を放してくれないか。話しなら俺が聞く」
「ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ」
男は狂ったように叫んだ。
「お前なんかと話は出来ない。お前みたいな恵まれてるヤツに、僕の何がわかるってんだよ」
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