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訳が分からない。
まったく知らない男から、まったくわからない理由で、ゆいは今、殺されそうになっている。
男は、
「キミはとてもいい子だ。僕にさっき挨拶をしてくれた」
それは覚えている。
水族館の入り口で、偶然目が合ってしまったから、気まずさをごまかすために挨拶をした。
「こんにちは」
「……どうも」
たったそれだけのやり取り。
男は、
「こんな僕に声をかけてくれるのは、キミだけだ。キミは本当に慈愛の天使だ。優しい人だ。ひと目で好きになった。だけどキミはあいつと付き合っている」
それは男が、挨拶をきっかけに、ゆいにひと目惚れをしたということだろうか。
だけど春一と一緒にいるところを見て、付き合っていると思い込んで激昂した。
それだけの理由?
それだと、勘違いではある。
春一と付き合っているのは、ゆいではなく鈴音。
いや……、
「もう無理はしなくっていいんだよ」
男の声音が急に優しくなった。
「あんないい男と付き合ったって、キミは幸せにはなれない。キミはあいつに合わせようと無理に無理を重ねて、きっとボロボロになってしまう。そんな風になってからじゃ遅いんだ。だから僕が今、殺してあげる」
「……」
何を、言っているのだろう。
さっぱり、意味がわからない。
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