第1章

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ちくわアバターの治療法は不明とのことだが、見つからないと決まったわけではない。 パーティーは、顔も無いのに泣きじゃくったちくわ姿の少女を連れて町に帰還する。 町並みは、ごく普通の中世ヨーロッパのような外観の建物が規則正しく並んでいる。 ただし、公園など人が集まる場所は微妙に異様だった。 ちくわアバターのカップルがまるで染色体のごとく深く絡みつき…お辞儀するちくわアバター同士は長い身体をうまく動かせなくて互いに頭をぶつけた。 憩いの場は、ちくわの楽園と化している。 もともと大抵は玄人ゲーマーだし、治療法がない症状ならちくわアバターが増えるばかりだ。 パーティーの一人は一人の商人風の少女に声をかけた。 「ミリーン…また一人ちくわアバターになった。 何か良い情報はないか?」 もちろん、治療法についてだ。 このミリーンという少女は戦闘商人だ…ちくわアバターの彼氏と組んで、モンスターのドロップ品を専門に売買している。 最近では珍しく、積極的に動くPCの一人だ。 いくら玄人だろうが意気消沈したPCも少なくなく…情報交換などで打開策を練るヒッキーPCもいたりする。 ネトゲ上でのヒッキーもおかしな話だが。 「BBSなんかの書き込みを見ても、その手の情報はないな。 いまだに荒らし目的のデマはちらほらあるけど…新規プレイヤーだと思う。」 変なアップデートをしてもなお新規がやって来るのは荒らしと思っている。 初心者には向かないし、アバターが変質する姿はトラウマものだろう。 「まだ荒らし入ってんのか。 まさか、運営のPKじゃないだろうな?」 変なところで勘ぐってしまう。 「運営かどうかはこっちでは判断しかねるよ。 …あ、ユベルカだ。」 自分のもとにやって来るちくわアバターの男性に向かって手を振るミリーン。 「ああ、ミリーンか。」 ちくわ姿だが、相棒兼彼氏のユベルカだ。 バリバリの戦闘職で魔法剣士をやっている。
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