48人が本棚に入れています
本棚に追加
山を越えた時であろうか。その時の映像も流れてしまっていたのか。
「……もう二度と印貢と会えなかったら、俺は印貢を忘れられるのだろうか?」
二度と会えなくても、忘れられない人もいる。
「帰って来たよ……俺は、ここに住んでいるからさ」
藤原は何度も頷いていた。
そこでやっと、藤原も家に帰る気になったようで、俺のコートのファスナーを上げてくれた。
参道に出ると、歩いてきた足跡が既に消えかかっていた。何分、ここにいたのだろう。
再び歩き出すと、藤原も横を歩いていた。
静かな商店街は、全て閉まっていた。
何の足跡もない新雪を踏み締めていたが、途中から大量の足跡があった。
「?何だ?この大量の足跡?」
縦横無尽に足跡があり、その靴も様々であった。まさか、深夜に雪合戦でもしていたのだろうか。
「……佳親さんが、弘武がいない事に気付いてしまったかな」
俺は藤原の顔を見た。
藤原も深夜なのに、何故、こんな場所にいたのだろう。きっと一人では来ていないので、親父である将嗣も一緒なのではないのか。
「まさか、気付いていないでしょ」
部屋が離れているので、普段でも接触は少ない。
「いた!!いましたあああああ」
奇声の後に赤い服が遠くに見えた。
「兄さん?」
サンタクロースの服を着た佳親が、走ってこっちに向かってきていた。
「弘武!」
佳親の形相が怖いので、思わず後ろを確認する。佳親の後ろには、将嗣も走ってきていた。
「何だ?」
つい、後ろに逃げようとすると、藤原が俺の腕を掴んだ。
「印貢?どこに行くの?」
どこに行くあてもないが、何だか怖い感じがする。
「弘武!」
佳親が飛びかかってくると、俺は次の瞬間空に飛ばされていた。佳親が思いっきり、俺を持ち上げていたのだ。
「弘武!俺の息子!プレゼントを用意していたのに、見つからないから怖かった」
佳親はそのまま俺を抱えていた。
「今まで過ごした半年が、幻みたいに思えたよ……」
征響と季子も参道に来ていた。他に、征響の幼馴染の、秋里と倉吉も一緒に参道に立っている。でも、その全てが家の方角から来ていたので、奇声を上げたのは誰であったのだろう。俺が上を見ると、近所の人がピースしていた。
「良かった、見つかって……」
見つかってというが、俺はちゃんと行き先を言っていた。家出でもない。
「……降ろしてください」
最初のコメントを投稿しよう!