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「俺、明日は早朝から墓参りに行ってきます。留守ですが心配しないでください」
「そう。早く帰って来てね」
希子のおかげで、ここで生活ができるようになった。その感謝も込めて、なるべく迷惑をかけないようにしたい。
図書館に行こうとしたが、やはり変更した。本当に母の墓参りに行こう。
部屋に戻ると、手持ちの金を計算してみた。無駄使いはしないようにしているが、母の墓の往復となると、かなり交通費がかかる。
「どうにか、なるか」
それでも、母の墓には行きたい。格安の夜行バスもあるので、とりあえず予約してみよう。駅に行き、公衆電話で予約してみると、キャンセルがあったので一席空いていた。
そのまま、電車に乗り、夜行バスの出る駅へと向かってみた。
バスに乗り込むと、子供一人だと止められそうになったが、母に会いに行くと説明すると乗車させてくれた。母が死んでいるとは、言っていないが、嘘ではないであろう。
窓側では無かったが、前の席であったので、前から外が見えていた。降っていた雨が、十二時を過ぎた頃に雪に変わった。そもそも、母の実家は、今住んでいる土地よりも北になる。雪が降っていても不思議ではない。
雪は止む事がなく降り続き、夜の道も白くなってきた。巷ではホワイトクリスマスになるのだろうか。俺には関係がない。
早朝に到着した駅でバスを降りると、空気がピンと張り詰めたような、きつい寒さになっていた。ここから電車に乗り、又、移動する。
やっと母の眠る墓の最寄り駅に到着したが、雪は更に増してきた。このままでは、電車が止まってしまう。
でも、俺は、戻る事なく駅から歩き出していた。
母の墓は、駅から見える山に向かい歩き、その小さな山を登るのだ。
雪は吹雪になってきて、車の通りも少なくなった。朝よりも昼に向かい更に寒くなり、既に夕方のように暗くなってきた。
山を登り始めると、車は一台も通らなくなった。斜面で足を滑らせて振り返ると、自分の歩いた足跡さえも残らないような、吹雪であった。
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