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「俺も由幸と一緒に居たい。一緒に生きていきたいよ」
藤原が頷いて、俺を引き寄せる。でも、鍋が噴きそうになっていたので、俺は藤原を突き飛ばしていた。
「……今、この雰囲気で鍋なの?」
そこで、このロマンチックな場面を、クリスマスイブにしたくて、藤原は俺を探していたらしい。
「藤原って、結構ロマンチックが好き?」
「……その方が、女の子にはモテるよ」
それは、そうなのかもしれないが、目の前にいるのは俺であろう。ロマンチックよりも、ロマンで、花より肉であった。
「まあ、弘武だからね」
藤原がやっと火が通った肉を、全て食べてしまった。俺には、野菜しか残っていない。
「由幸、肉を食べたな!」
まだ肉があるので、入れればいいだけなのだが、食べようとしたものが取られると腹が立つ。
「弘武、ブラインド閉めて、テレビにしよう」
確かに、鍋で窓が曇ってきた。
「俺、テレビに馴染みがなくてさ」
しかし、藤原は熱心にニュースを見ていた。
「意外……」
ゆっくりと、鍋を食べて、ニュースについて意見したりイチャモンをつける。俺は、一人で飯が多いが、人と食べるというのもいいのかもしれない。
「弘武、季子さんは、子供が出来たらしたかった夢が沢山あった。その一部でもいいから、叶えてあげてよ」
俺は食べ終わったので、鍋の火を消す。すると、藤原の家の女性がやってきて、丁寧に片付けていった。次に、デザートと飲み物まで持ってくる。
俺も、季子には遠慮していると思う。季子が一生懸命になる程に、距離ができてしまうのだ。季子は、俺を見ているのではなく、幻の自分の子供を見ているような気がしていた。その子供のふりをすることが、俺にはできないのだろう。
「俺、人間関係が不器用だろう。それに、季子さんには、本当の事を知られたくない」
どうしてナイフのコレクションがあるのか。どんな場所で生きてきたのか、季子が知ったら、幻の子供との差に驚愕してしまう。それが、俺には怖かった。
「まあ、その体の傷。戦闘能力の高さ。頭脳と使い方。普通ではないからな。でも!」
「でも?」
藤原は、当たり前のように俺の分のアイスも食べていた。俺は、熱中してしまうと、食べる事ができない。
「季子さんは、もう弘武を見ている。すぐに、弘武の真実にたどり着く。そして、季子さんは弘武を理解して超えてくる」
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