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母は空(そら)のような人だった。だから、こんなに空に近い場所に眠ろうとしたのかもしれない。ならば、母はどこからも俺を見ている。そんな気がする。
「母さん……」
こうして静かだと、このまま、ここで眠っていたくなる。墓に寄りかかると、又、雪が降ってきていた。寒空にいたせいか、手の上に雪が落ちても溶ける事がない。
雪が積もるならば、俺も雪が隠してくれるだろう。俺が目を閉じると、雪は音を吸収してゆく。自分の呼吸さえも、聞こえない。腕にも足にも、雪が積もってゆく。同じ真っ白ならば、もう寂しくはない気がする。
グレーの海に雪は積もるのだろうか。いつか、降った雪は空に戻るだろうか。ならば、母に伝えて欲しい。
「母さん、俺、親友が出来たんだよ。藤原って言ってね、ヤクザの息子の癖に、正義感が強くてさ……冷静かと思うと狂犬……変な奴だろう……、……」
バスでよく眠れていなかったせいか、本当に眠ってしまった。
すごく静かで、気持ちが軽かった。でも、その後に物凄く寒い。その寒さの中に、温かさがじんわりと来る。何故、足だけ温かい。しかも、足が重い。
「……何だ……?」
目を開けて確認したが、丸まっている物体が兎と気付くのに、数秒かかった。
「さっきのお前か……」
足元に変な兎が来なかったら、そのまま凍死するところであった。
「ありがとう。俺、まだ、死ねないのだよね」
母が言っていた。卒業式や、成人式、沢山一緒に生きて見ていたかったと。自分の代わりに見てねと言ったが、自分を見ていろということなのであろうか。仕方がないので、こうして、代わりに見た事を報告しに来いということなのか。
「まだ。成人式があるからさ」
成人式の前に、中学を卒業しなくてはならないか。
寺を出ようとすると、住職が来て止めようとした。
「歩いて駅まで行くの?大丈夫?」
「歩いて来たのです。歩いて帰れます」
それに、電車が動いている内に駅に辿り着かなくてはいけない。
登りよりも下りの方が楽かと思ったが、間違いであった。滑るので、早く歩けない。しかも、斜面が急で転ぶと止まらない。
兎は途中で山へと帰って行った。
やっと駅まで着くと、雪まみれになってしまっていた。雪を払って電車に乗り込んだが、雪のため途中の駅でストップしてしまった。いつ走りだすのか分からないので、そのまま電車の座席に横になった。
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