48人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんはいらない。俺の弘武。俺のにしたの。俺だけを見て、俺の絶対の人でいて。俺は印貢が大好きだよ」
解釈に時間を要する。俺は、最近になってやっと、藤原が親友でいいと思った。しかし、藤原は既に、その先にいるということなのか。
「今日、母さんの墓前で、藤原を親友だと紹介した……」
でも、親友というのは、キスしたりするのか。
「親友だよ」
藤原が真顔で言い切るので、俺はふと笑ってしまった。
言葉に縛られることもないのか。親友でいい。
「俺も、藤原が大好きだよ」
藤原の言う大好きと同じなのかは分からないけど、俺も藤原が好きだった。こうやって、俺が寂しいと思えば、一緒にいようとしてくれる藤原の優しさが温かい。
第二章 星のように雪が降り
降り注ぐ雪はいいが、その下でコートを脱がされているときつい。寒さがじわじわと、中までやってくる。
ファスナーを上げて欲しいが、藤原は俺の首にキスしていた。首にキス?俺のマフラーが外されていた。
「藤原、寒い!」
藤原には俺の声が聞こえていないらしい。全く気にせずに、藤原が俺の背に手を回していた。
ならば、藤原のジャンパーも脱がしてしまえば、寒さが分かるだろう。藤原のジャンパーのファスナーを降ろすと、中に手を入れてみる。藤原が温かくて、つい腕を温めてしまった。
「メリークリスマス。俺の願いは印貢が欲しい……だよ」
それは、サンタクロースも運べない代物だろう。
「……願いを叶えて欲しい」
誰が願いを叶えるのだろう。
参道の石畳は雪で隠れ、誰も歩いていなかった。蛍光灯の光の下では、今も雪が降っている。キラキラと光る雪は、流星群のようで、ここが何の世界でもなく俺と藤原だけのように思える。
どんなに近くにいても、藤原は藤原家の長男で、俺には遠い存在であったような感じがしていた。
「誰といても、印貢じゃないのなら……俺は寂しい」
藤原のモテぶりは半端ではなく、あちこちで口説き文句を耳にする。藤原の自宅でも、行く度に幾人もの彼女と会った。
「藤原、寒いから帰ろう……」
だから、俺が特別ではないと自覚している。
「……弘武。俺を見て」
見ろと言いつつも、藤原が再びキスしてくる。
「……テレビの豪雪の中継画像で、どこかの駅から印貢は一人で消えていった。その雪に残されている足跡を見て、不安で一杯になった」
最初のコメントを投稿しよう!