彼がメガネを外したら…。【最終節を大幅加筆しました】

美女とマニアック

史明は、ありえないほどマニアックで、歴史の研究のことしか考えていないような人間。
自分の身なりはおろか、生活のことにも頓着なく、研究の〝ツボ〟に入ってしまうと、風呂や歯磨き、食べることさえも忘れてしまう。

伸びっぱなしのボサボサの髪に、何日も拭かれていない曇ったビン底眼鏡。どこからどう見ても、ダサく冴えないうえに怪しささえ漂う男。

要するに、自分の体の細部まで気を抜かない絵里花とは、正反対の人種と言っていいだろう。

……だけど、史明を見つめる絵里花の眼差しが、穏やかに和んでくる。史明の視線を意識すると、唇を噛んで少し緊張して、その胸がキュンと切なくなる。

そう、絵里花は、あり得ないくらい〝ダサい〟を絵に描いたようなこの男に、密かに恋をしていた。

毎日絵里花が気合を入れて、細部まで自分を磨いて出勤してくるのも、歴史のことにしか興味を示さないこの男に、少しは自分のことを意識してもらいたいからに他ならなかった。

「さあて、今日も始めるか……」

史明のその言葉も、絵里花にかけられているものではない。
史明にとって絵里花は空気みたいなもので、絵里花が巷でどんなに完璧な美人だと噂されていて、その美人と二人きりになれていることなんて、全く頓着することもない。