学会

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一人目の発表が終わり、二人目も終わる……。そして――、史明の番。 史明が(まん)()して席を立つとき、同じく資料を抱えて立ち上がる絵里花に言葉をかけた。 「今日は、君が一緒だからかな?いつもみたいに緊張してないよ」 史明はそう言いながら、申し合わせていた通りに分厚いレンズのメガネを外して、スーツの胸のポケットに入れた。 その瞬間――、こんな時なのに絵里花はやっぱり史明の素顔を見て、息を呑んで固まってしまう。 微笑みかけてくれている、史明の涼やかな目……。 それを見られただけで、絵里花は胸がいっぱいになった。こんなご褒美をもらえたのだから、何も怖くはなくなった。今はただ、史明のために、絵里花のできるすべてを尽くそうと思った。 歴史研究者には、男性が多い。それにも関わらず、発表をするための壇上に史明が現れると、声にならないどよめきのようなものが起こった。それほど史明の姿は、誰が見ても非の打ちどころのないくらい端麗だった。 「ご紹介にあずかりました。岩城史明です」 そして、自己紹介してそこにいるのが史明本人だと判明すると、 「えええっ!?」 重石など史明と旧知の人物たちは、声を出してその驚きをあらわにした。会場はひとしきりざわめきに包まれる。そのざわめきを収めるかのように、史明が口を開いた。
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