共同作業

5/11
2467人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
「俺だって諦めたくはないけど、無理だよ」 「あれこれ迷って御託を並べている暇があったら、先を進めてください!」 全く聞く耳を持たない絵里花に、史明も険しい表情になってくる。 「だったら、どんな研究ができるって言うんだ。ただの史料紹介や報告じゃないんだぞ?無謀だよ。できっこない」 「できっこないかどうかは、やってみなければ分からないでしょう。タイトルなんて当たり障りのないものを、適当に考えて言っておけばいいんです」 「君の言ってることは、無責任だ」 「そう言う岩城さんは、意気地なしです!」 いつしか二人とも感情的になって、大きな声で言い争いを始めていた。そしてここには、それを止めてくれる人は誰もいない。二人の声だけが響き渡っている。 「そういう問題か!?君は……」 と、史明が言いかけたところで、感極まった絵里花の目から涙がポロリと零れて落ちた。 その涙を見て、史明は息を呑む。 泣かせてしまった罪悪感や、なんで泣いているのか分からない驚きよりも、涙によって増幅された絵里花の美しさが、いきなり史明の意識の中に飛び込んできた。 もう気合の入ったメイクはしなくなったとはいえ、やっぱり絵里花は透き通るように綺麗だった。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!