モテモテ眼鏡

8/12
前へ
/12ページ
次へ
「ハグして良いよ」 僕は、暫く歩いて見つけた、その若い女性に、両手を広げて言った。 「し、失礼します」 礼儀正しく、僕の胸の中に飛び込んできたその娘は、自分好みの可愛い子ちゃんだ。そう吟味したのだ。 だから当然、興奮していた。 僕は腕を回し、その娘を包むように抱き返した。 想像以上に華奢な骨格、むせ返るような甘美な香りに酔いしれる。 か細い首に顔をうずめて、首筋を甘く噛んでみると。 「あん」 反応に満足して、僕はそのまま、顔を正面に持っていき、唇にキスをした。 そして。 「この後は、ホテルで、遊ばないか」 「うん、良いよ」 ホテルに着いてしまった。 心臓が爆発しそうな程、高鳴る。 受付が無人で、部屋の使い方が分からず狼狽えたが、彼女は気にもせず、僕にべったりのままだった。 絶対に、サングラスを外したりしない。 シャワーの時も、ベッドの中もだ。そう心に決めた。 テレレレ テッテテーン 事が済んで、2人でホテルを後にする。 ラブラブだ。 僕は、歓喜に震えた。 生まれて初めて、恋人が出来たのだ。 こんな簡単に。 この眼鏡だ。 …眼鏡のお陰でか。 僕はサングラスを外した。 「痛てっ」 両のこめかみの辺りが痛んだ。指で触って確認すると、少量の血が付いていた。 金具に引っ掛けたのか?皮膚が少し裂けただけだと、気にも留めなかった。 それよりも、今まで僕の隣にいたあの娘が、スタスタと先に歩いて行ってしまった。 僕を置いて、振り向きもせずに。 「あ、あの…」 言葉にするのを止めて、そのまま見送った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加